第7回はPIIGS(ピーグス)について。
前回はBRICSという新興国のまとまりを説明しましたが、今回は少しマニアックなネタを扱います。
皆さんはPIIGSと呼ばれる国々があるのをご存じでしょうか?
Pig(豚)ではありません。でも、「豚」という侮辱的な意味合いを込めてこう名付けられました。
イギリスやアメリカのメディアが、ヨーロッパの中で財政状態の悪い国々をまとめて呼ぶ際に使い始めた言葉で、2008年のリーマンショック頃からこう呼ばれています。
具体的には
P ポルトガル(Portugal)
I イタリア(Italy)
I アイルランド(Ireland)
G ギリシャ(Greece)
S スペイン(Spain)
の5か国を指し、EUの中では「お荷物」的な存在として皮肉られています。
この「お荷物」な感じが出てしまったのが2010年。ギリシャ財政危機によってPIIGSを含めたEU全体が財政的な混乱に陥りました。
本来EUに加盟している国は、財政赤字をGDP比3%以内に抑えなくてはいけないというルールがあります。ギリシャはその財政赤字を偽って公表しており、実際は対GDP比13%近くに及んでいたことが明らかになりました。
その後ギリシャ国債(財政赤字を補うもの)の信用が下がり、価格が下落。ギリシャはユーロを使っていますので、市場の混乱はヨーロッパ中に広がりました。
最終的にIMF(国際通貨基金)とEUによってギリシャへの支援がなされましたが、不況は現在にも続いています。
一方で、最近ではアイルランドはPIIGSから脱却したともいわれています。もともとアイルランド系の民族はアメリカで成功した人が多く、外国とビジネスのつながりを強く持っています。(ジョン・F・ケネディやロナルド・レーガンもアイルランド系)
加えて低い法人税や英語圏という特色を生かし、外資系企業やIT企業を多く受け入れ、今では「欧州のシリコンバレー」とも呼ばれます。アイルランドの1人当たりGDPは現在イギリスよりも高いです。
ーここから先は少し世界史ですー
ところで、ドイツの哲学者マックス・ウェーバーの名著『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』(略して「プロ倫」)という本をご存じでしょうか?
1905年に出版されたこの本の考え方がPIIGSと大きく関わっているとされています。
キリスト教徒には大きく分けるとカトリックとプロテスタントがいますね。
教会に寄進(寄付)することで天国に行けるという伝統的なカトリックの考え方を、プロテスタント宗派を作った「ルター」と「カルヴァン」は強く否定します。「教会が儲かるだけじゃん!」と。
彼らは「予定説」という「天国に行ける or 行けないは、生まれたときから神によって決まっている」という考え方を提唱します。
そうなると、プロテスタントの信者は自分が神に選ばれているのかどうか、めちゃくちゃ不安ですよね!
そこでカルヴァンは、神に選ばれている人は「使命」を与えられているとし、その使命とは「天職」であると唱えました。「天職」とは自分自身に最も合っていて、全うできる職業のこと。日本語の「天職」と同じ意味です。
つまり、プロテスタント信者は「自分の仕事に全うできるかどうか」が「自分自身が神に選ばれているか」を判断する唯一の方法だったのです。
プロテスタント信者は不安をなくすためにどんどん働き、そうして儲けたお金も自分のビジネスに再び投資して「天職(使命)を全う」していきました。
マックス・ウェーバーは、このプロテスタントの考え方が現代の利益を追求する資本主義にマッチしていると論じました。
PIIGSの話に戻りましょう。
偶然か必然か、ポルトガル、イタリア、アイルランド、スペインはすべてがカトリック信者の多い国です。ギリシャ正教会もカトリックと似ています。
対して経済面でEUをリードしているドイツや北欧はプロテスタントです。
(イギリスの宗教は「イギリス正教会」と呼ぶが、プロテスタント派)
出典:Wikimedia Commons (投稿者:San Jose)
(紫:プロテスタント派 青:カトリック派 赤:正教会 緑:イスラム教)
100年以上前の本がこうして現代世界を証明しているのは興味深いですよね。
しかし、今はみんな「神」とか「使命」とか考えずに、単に「お金」を崇拝して生きているような気もしますが。。。
まとめ
・PIIGSとはヨーロッパの財政状態の悪い国
・プロテスタントの倫理が資本主義を支えてきた?
ではまた。